社団法人パーソナルコンピュータユーザ利用技術協会の土曜サロンが主催する夏季研修会「小淵沢研修会(2003-7-26〜27)」において発表したものをまとめて,「パソコンリテラシ(2004/1)」に掲載したものから転載。


1.プロローグ

 パソコンの普及は急速で,一人一台の企業が普通になってきた。各企業はサーバを保有して,社員のメールアドレスを提供し,企業のホームページ(HP)を作成・発信するために,企業名に対応するドメイン名を独自に入手し運用しているところが多くなってきている。
 発表者は,1990年ごろから,コンピュータウイルス対策の専門家として,最初はシステム監査の立場から社内のウイルス対策を指導してきたが,その後メーカ各社のアンチウイルスソフトを評価し,社内に導入するだけでなく,企業等のお客さまに対してコンサルテーションをしながら販売することを業務としてきた。

 
         <図1>ウイルス感染経路の内訳

2.アンチウイルスソフトの進歩

 当初,日本語OS環境で稼動するアンチウイルスソフトは国産品しかなかったが,97年ごろには,海外の良いアンチウイルスソフトが,日本語OS環境でも提供されるようになり,選べるソフトが非常に多くなった。その中から,より良いものをお客さまに提案することに努力してきた。
 お客さまに良いものを提案し採用してもらうことは非常に難しく,どこから買っても同じと判断されると,値引き競争になりお互いにメリットがなくなる。特に,お客さまが先入観的に良いと考えているものと一致しないものを提案する場合は理解されないことが多い。そのような場合を想定して次のように対応することにした。

3.アンチウイルスソフトの販売戦略

 お客さまに説明し理解してもらうために,PCを使ってデモをすることが多いが,ウイルスの感染デモや発病デモも行うので,ウイルス入りのノートPCを持ち込んで行うことになる。
 そのノートPCには,より良くないので販売するつもりのないソフトも含めて,世界中のアンチウイルスソフトの中から10社以上のものをインストールしておく。そうすれば,お客さまが先入観的に良いと考えているものもインストールしてあるので比較しながらデモを行うことができ理解されることが多い。場合によっては,2種類以上のアンチウイルスソフトをメモリに常駐させて,ウイルスが感染した時にどのソフトが先に発見するかのデモを行うこともできる。(*1) このように,一つのソフトに詳しい人は各メーカ等に数多くいるが,各社のアンチウイルスソフトに精通している人は少なかったためもあって,98年日経BP社からの依頼で「日経バイト」の記事を書くことになった。内容としては,読者に対するウイルスの種類別の抜本対策法と,アンチウイルスソフトのメーカに対する今後の改善提案をまとめている。(*2)

4.「PCサーバ」が「一家に一台」の時代のウイルス対策

 さて今後のウイルス対策はいかになすべきか。
 個人でメールアドレスを持つ人も多くなり,更にHPを持つ人も出始めてきた。今のところは,プロバイダのドメイン名に間借りをしている人が普通であるが,独自にドメイン名を入手し,短くて個性的なメールアドレスやURLがほしいと考える人も多くなる。更には,TELやFAXのように一家に一台の 「PCサーバ」が導入される時代になるであろう。
 このようなことを考えながら「個人用PCサーバ」のウイルス対策を検討し始めたのは,2000年の新年の抱負であった。個人用の条件として「安価」「安定性(メンテナンスフリー)」を考えて,当時,将来性が期待されつつあった「Linux OS」に着目し検討することにした。

 
       <図2> サーバOS市場で「LinuxOS」が急成長

 検討の範囲を「PCサーバ」「ウイルス対策」「Linux OS」に限定し,その組合せの中から優先度を決めて実現していくことにした。
 最初に着目したのは,一般の利用者にも理解されやすい「メールサーバ」におけるウイルス対策である。「ウェブサーバ」や「ファイルサーバ」等の場合は,アンチウイルスソフトをメモリに常駐させることによりウイルスを検出することができるが,「メールサーバ」の場合は,通過するメールを一通ずつメールソフト(Sendmail,Qmail等)からアンチウイルスソフトに渡し,ウイルスに感染していないか否かをチェックする必要がある。アンチウイルスソフトとしては,世界的に良いソフトの中からインタフェースを公開している英国の「Sophos Anti-Virus(*3)」を採用し,メールソフトとの橋渡しをするソフト「CheckMail(*4)」を開発することにした。

 
         <図3> 「CheckMail」の機能概念図

 毎年5月に開催される「LinuxWorld」に2001, 2002, 2003年の3年連続出展し,展示デモやプレゼンテーションを行い多くのお客さまに利用していただいている。
 今までのお客さまは,既に「Linuxメールサーバ」を使用中の場合がほとんどであるため,OSも「Turbolinux」「RedHat Linux」の各バージョンに対応し,メールソフトも「Sendmail」「Qmail」等に対応する「CheckMail」を開発してきた。
 今後は,各OS各メールソフトに対応するソフトの開発だけでなく,当初考えた個人用メンテナンスフリーのシステムの開発を推進したい。そのためには,今までのPCベンダーは,販売戦略や技術者不足の理由から「Sendmail」搭載のものがほとんどであったが,今後は,利用者の立場で考えると,「RedHat Linux」+「Qmail」を搭載したPCシステムが良いと考えているので,それが提供できるPCベンダーの活躍を期待している。

 
         <図4> Linux メールサーバのウイルス対策

5.エピローグ

 小淵沢研修会当日(7/27)の新聞によると,総務省の推計でIT分野の人材は3割以上(42万人)不足しており,うちウイルス対策の専門家は12万人も足りず深刻な問題になっていると指摘している。効率の良いウイルス対策が望まれる。

 この原稿を作成している8/12には,新型ウイルス「MSブラスト」が発見され世界中に感染被害が広まりつつあるというニュースが入ってきた。8/16になるとMS社に情報が集まるように組み込まれているという話を聞くと,1995年に起きた米国ペンタゴンの「ウイルス侵入事件(?)」のときと同じ作戦ではないのかと思ったのは,私だけであろうか。 (完)

[脚注]
*1 2種類以上のアンチウイルスソフトを同一のPCのメモリに常駐させると,競合してシステムに異常が起こることがありますので通常は勧められません。
*2 「日経バイト」1998-11(P210)
  「ネットワーク・セキュリティ」   第1部「ウイルス対策」
  (良いソフトを導入し, 更新と定期的な感染チェックを)
  参照先 http://www.nakamac.com/
*3 「Sophos Anti-Virus」の詳細の参照先
  http://www.sophos.co.jp/
*4 「CheckMail」の製品概要・仕様等の参照先
  http://www.hitachijoho.com/solution/linux/service_checkmail.htm